なぜ CPU 1つでは足りないのか
03.2 で見た「電力の壁」の続きである。1コアを速くする道が塞がったあと、 設計者たちは2段階で方針を変えた。
「トランジスタ数は2年で2倍」は 2010年代に鈍化。クロック周波数も 2004年頃から約 4 GHz で頭打ち(熱の問題)。1コアを速くする手段が尽きた。
1コアを速くする代わりに、コアを増やして並列に処理する方向へ。ただし並列化できないタスクには上限がある(アムダールの法則)。
汎用コアを並べるのではなく、タスクに特化した専用プロセッサを使い分ける。CPU + GPU + NPU が1チップ(SoC)に同居する時代へ。
P + E コア
グラフィクス・計算
AI / ML 専用
全コアで共有
約 1,840億個のトランジスタを1チップに搭載。それぞれのユニットが得意な仕事だけを引き受けることで、消費電力を抑えたまま高い性能を出している。
4種類の設計思想
それぞれ「何を捨てて、何を取ったか」が違う。タブを切り替えて比べてみてください。
設計思想
「何でもできる1人の天才」。複雑な分岐・条件判断・順序処理が得意である。コア数は少ないものの、1コアあたりの処理能力が飛び抜けている。
主要技術
- アウト・オブ・オーダー実行 — 依存関係のない命令を並び替えて効率化
- 分岐予測 — if 文の結果を先読みして投機的に実行
- P コア + E コア — 高性能コアと省電力コアを使い分ける(Intel / Apple)
- 大きなキャッシュ — 数十 MB の L3 でメモリ遅延を隠す
設計思想
「単純作業をこなす数万人の作業員」。NVIDIA H100 では 16,896個の CUDA コアが同時に動く。1コアの能力は低くても、数で圧倒する設計である。
グラフィクスから AI へ
3D ゲームのピクセル色計算。「100万ピクセル全部に同じシェーダーを適用」は GPU の独壇場であった。
ニューラルネットワークの学習は、要するに行列のかけ算の繰り返し。GPU の得意技と偶然ぴったり一致したため、ChatGPT も画像生成 AI もすべて GPU の上で動いている。
設計思想
「行列演算だけに特化した超省電力チップ」。GPU より演算の種類は限られるが、特定の AI 推論では GPU の数十倍のエネルギー効率が出る。常時動かしても電池が保つのが強みである。
主要プレイヤー
設計思想
「ハードウェアを現場(Field)でプログラムできる」のが名前の由来。内部に数万〜数百万個の LUT(ルックアップテーブル)があり、Verilog コードを書き込むことで任意の回路になる。
CPU とどう違うのか
メモリから命令を1つずつ読み出し → デコード → 実行。汎用的であるが、1つの仕事に何段階もかかる。
回路そのものがその処理専用の形をしている。データが入れば即座に結果が出る——第1章の組み合わせ回路と同じである。
新しい CPU 設計の試作検証。製造前に FPGA で動作を確かめ、バグを潰す。Intel も AMD も Apple も、この手順で設計している。
5G 基地局の信号処理、航空宇宙の制御、金融の高頻度取引(マイクロ秒の応答が要る)、医療画像処理など。
特性比較チャート
6つの軸で5段階評価してみる。どれかが全部で勝つことはない——これがヘテロジニアス化の理由そのものである。
| 評価軸 | CPU | GPU | NPU | FPGA |
|---|
このタスク、どのプロセッサ?
8問ある。答えを選ぶと、なぜそうなるかが出る。迷ったら「単純な計算の大量繰り返しか、複雑な判断か」で考えてみてください。
まとめ早見表
| プロセッサ | コア数の目安 | 設計の一言 | 主な用途 | 代表製品 |
|---|---|---|---|---|
| CPU | 4〜128コア | 汎用・直列処理の高速化 | OS・アプリ・ゲームロジック | Intel Core / AMD Ryzen / Apple M4 |
| GPU | 数千〜1万6千コア | 並列・行列演算の大量処理 | グラフィクス・AI 学習・科学計算 | NVIDIA H100 / RTX 4090 / AMD RX 7900 |
| NPU | 16〜数千コア(専用) | AI 推論の省電力特化 | 顔認証・音声認識・オンデバイス AI | Apple Neural Engine / Google TPU / Hexagon |
| FPGA | 数万〜数百万 LUT | 書き換え可能な専用回路 | 試作・通信・リアルタイム制御 | Xilinx Virtex / Intel Stratix / Zynq |
これで第3章「コンピュータの設計」は終わりである。次は、この4種類のプロセッサを実際に管理している側——OS の話へ進む。