computer system foundationCSF 2026
コンピュータの設計 / 03.5

CPU / GPU / NPU
FPGA は何が違う?

いまのコンピュータは「1つの CPU」では動いていない。用途に特化した複数のプロセッサが分担している——その設計思想と使い分けを見る。

所要:25–35分 難易度:★★☆ 前提:CPU 性能評価
01

なぜ CPU 1つでは足りないのか

03.2 で見た「電力の壁」の続きである。1コアを速くする道が塞がったあと、 設計者たちは2段階で方針を変えた。

きっかけ
ムーアの法則の限界

「トランジスタ数は2年で2倍」は 2010年代に鈍化。クロック周波数も 2004年頃から約 4 GHz で頭打ち(熱の問題)。1コアを速くする手段が尽きた。

第1の答え
マルチコアへの転換

1コアを速くする代わりに、コアを増やして並列に処理する方向へ。ただし並列化できないタスクには上限がある(アムダールの法則)。

第2の答え
ヘテロジニアス化

汎用コアを並べるのではなく、タスクに特化した専用プロセッサを使い分ける。CPU + GPU + NPU が1チップ(SoC)に同居する時代へ。

実例:Apple M3 Ultra — 1チップの中身
CPU
32コア
P + E コア
GPU
80コア
グラフィクス・計算
NPU
32コア
AI / ML 専用
Unified Memory
192 GB
全コアで共有

1,840億個のトランジスタを1チップに搭載。それぞれのユニットが得意な仕事だけを引き受けることで、消費電力を抑えたまま高い性能を出している。

02

4種類の設計思想

それぞれ「何を捨てて、何を取ったか」が違う。タブを切り替えて比べてみてください。

CPU — 汎用の王様
Central Processing Unit

設計思想

「何でもできる1人の天才」。複雑な分岐・条件判断・順序処理が得意である。コア数は少ないものの、1コアあたりの処理能力が飛び抜けている。

得意複雑な条件分岐・シングルスレッド処理
得意OS・アプリの実行(汎用タスク全般)
苦手単純な演算を何億回も繰り返す処理

主要技術

  • アウト・オブ・オーダー実行 — 依存関係のない命令を並び替えて効率化
  • 分岐予測 — if 文の結果を先読みして投機的に実行
  • P コア + E コア — 高性能コアと省電力コアを使い分ける(Intel / Apple)
  • 大きなキャッシュ — 数十 MB の L3 でメモリ遅延を隠す
実例:Intel Core Ultra 9 285K(24コア・最大 5.7 GHz)、AMD Ryzen 9 9950X、Apple M4 Pro(14コア)
GPU — 並列処理の怪物
Graphics Processing Unit

設計思想

「単純作業をこなす数万人の作業員」。NVIDIA H100 では 16,896個の CUDA コアが同時に動く。1コアの能力は低くても、数で圧倒する設計である。

得意行列演算(ピクセル・AI・物理シミュレーション)
得意同じ処理を大量データへ一斉に適用(SIMD)
苦手複雑な分岐が多い逐次処理

グラフィクスから AI へ

元々の用途(グラフィクス)

3D ゲームのピクセル色計算。「100万ピクセル全部に同じシェーダーを適用」は GPU の独壇場であった。

現在の主役(AI / ML)

ニューラルネットワークの学習は、要するに行列のかけ算の繰り返し。GPU の得意技と偶然ぴったり一致したため、ChatGPT も画像生成 AI もすべて GPU の上で動いている。

実例:NVIDIA H100(AI データセンター)、RTX 4090(ゲーム・研究)、Apple M4 の統合 GPU
NPU — AI 演算の専門家
Neural Processing Unit / AI Accelerator

設計思想

「行列演算だけに特化した超省電力チップ」。GPU より演算の種類は限られるが、特定の AI 推論では GPU の数十倍のエネルギー効率が出る。常時動かしても電池が保つのが強みである。

得意軽量 AI 推論(顔認証・音声認識・被写体検出)
得意オンデバイス AI(クラウド不要・プライバシー保護)
苦手汎用計算・大規模モデルの学習

主要プレイヤー

Apple Neural EngineA / M チップ搭載・38 TOPS
Google TPU v5データセンター向け・918 TFLOPS
Qualcomm HexagonSnapdragon 搭載・Android AI
NVIDIA Tensor CoreGPU 内蔵の AI 特化ユニット
身近な例:iPhone の「写真の人物をすぐ認識」「Siri のオフライン音声認識」「夜景モード」は、すべて NPU が処理している。
FPGA — 書き換えられる回路
Field-Programmable Gate Array

設計思想

「ハードウェアを現場(Field)でプログラムできる」のが名前の由来。内部に数万〜数百万個の LUT(ルックアップテーブル)があり、Verilog コードを書き込むことで任意の回路になる。

得意ハードウェアの試作(チップ製造前の動作確認)
得意リアルタイム信号処理(通信・レーダー・映像)
苦手汎用 OS の実行・大量生産(1個あたりが高い)

CPU とどう違うのか

CPU の動き方

メモリから命令を1つずつ読み出し → デコード → 実行。汎用的であるが、1つの仕事に何段階もかかる。

FPGA の動き方

回路そのものがその処理専用の形をしている。データが入れば即座に結果が出る——第1章の組み合わせ回路と同じである。

研究・開発での用途

新しい CPU 設計の試作検証。製造前に FPGA で動作を確かめ、バグを潰す。Intel も AMD も Apple も、この手順で設計している。

産業での用途

5G 基地局の信号処理、航空宇宙の制御、金融の高頻度取引(マイクロ秒の応答が要る)、医療画像処理など。

この授業とのつながり: Verilog 入門演習2で書いた加算器・ALU のコードは、そのまま FPGA に書き込んで実機で動かせる。 授業で設計した回路が、本物のハードウェアになる。
03

特性比較チャート

6つの軸で5段階評価してみる。どれかが全部で勝つことはない——これがヘテロジニアス化の理由そのものである。

評価軸 CPU GPU NPU FPGA
注意:この評価はあくまで相対的なものである。実際の性能は世代・製品・ワークロードで大きく変わる。 「汎用性が高い=優れている」でも「低い=劣っている」でもなく、用途に合った選択が答えである。
04

このタスク、どのプロセッサ?

8問ある。答えを選ぶと、なぜそうなるかが出る。迷ったら「単純な計算の大量繰り返しか、複雑な判断か」で考えてみてください。

05

まとめ早見表

プロセッサコア数の目安設計の一言主な用途代表製品
CPU 4〜128コア汎用・直列処理の高速化 OS・アプリ・ゲームロジックIntel Core / AMD Ryzen / Apple M4
GPU 数千〜1万6千コア並列・行列演算の大量処理 グラフィクス・AI 学習・科学計算NVIDIA H100 / RTX 4090 / AMD RX 7900
NPU 16〜数千コア(専用)AI 推論の省電力特化 顔認証・音声認識・オンデバイス AIApple Neural Engine / Google TPU / Hexagon
FPGA 数万〜数百万 LUT書き換え可能な専用回路 試作・通信・リアルタイム制御Xilinx Virtex / Intel Stratix / Zynq

これで第3章「コンピュータの設計」は終わりである。次は、この4種類のプロセッサを実際に管理している側——OS の話へ進む。